Written by Kazuhiko Noguchi

【漢方処方解説】麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)【実践的な運用】

漢方処方解説

【漢方処方解説】麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)【実践的な運用】

こちらの処方解説では、今までの書籍での学習と漢方研究会で習得した内容をベースに、実際に患者さまに処方し、感じたことや自分の考えを記載しています。

【漢方処方解説】麻杏薏甘湯の出典

金匱要略

痙、湿、暍の病と脈証と治【第ニ】編

痙(けい)・・・痙攣を起こす病気。破傷風、破傷風類似の病気など
湿(しつ)・・・水が起こす病気。リウマチ、神経痛など
暍(えつ)・・・日射病。

条文(訓読)

「病者,一身盡く疼み,発熱日所劇なる者は,風濕と名く,此病汗出で風に當るに傷れ,或は久しく冷を取るの致す所なり。麻杏薏甘湯を与えるべし。」

条文(現代語訳)

「病気の人で身体全体が腫れ、発熱して午後に悪くなるものは風湿である。この病は汗が出た後に風に当たって傷つき、若しくは長い間、冷飲食を取る事で傷ついてなる。麻杏薏甘湯を与えるべし。」

八綱分類

表寒実証(実証だがやや虚証による)

麻杏薏甘湯の構成生薬

麻黄4g、杏仁3g、薏苡仁10g、甘草2g

  • 麻黄:体表の水を発散する。
  • 杏仁:麻黄に協力して上部の水を除き、喘を治す。
  • 薏苡仁:表の血虚燥を治し、皮膚を潤し、湿を除く。
  • 甘草:諸薬を調和し、痛みを去る。

麻杏薏甘湯が適応となる病名・病態

①:保険適応病名・病態

関節痛、神経痛、筋肉痛

②:漢方的適応病態

風湿の表証。「風湿」とは外的な湿気や気圧変化により痛みを助長させる病態。冷えが原因で発熱し、筋肉痛、関節痛を訴えるものが目標。急激の症よりも、やや緩症に応ずる。

麻杏薏甘湯の運用のポイント

  • 皮膚は汗が出て、あるいは浮腫があり、また枯燥して艶がないことが多い。
  • 頭にフケが多い、というのも本方運用目標の一つ。
  • 疼痛よりも浮腫が主なもの。
  • 「発熱が午後に強くなる」というように、やや熱証に傾くものに用いる。

歴代医家の使用経験・口訣

  • 熱がないのに氷枕で後頭部を冷やし、首が動かなくなった病人を本方で2日で半ば治し4日で全治させた。(漢方診療の実際/大塚敬節)
  • 永く冷える処に居たり、冷える仕事をしたり、汗をうんと掻いて身体を冷やし、身体が痛くなり、午後4時頃になると発熱する。冷えから起こるというのが本方の行く根本たり。(古方薬嚢/荒木性次)
  • 若しその証一頭重きものは、明医指掌の薏苡仁湯とす。痛熱はなはだしき者は当帰粘痛湯に宜し。(勿誤薬室方函口訣/浅田宗伯)
  • 風湿、痛風にして発熱し、激痛し、関節腫起する者は、朮・附子を加えて奇効あり。(類聚方広義重校薬微/尾台榕堂)
  • 疣贅(いぼ)に有効。(奥田謙蔵)

麻杏薏甘湯の運用の実際

膝の痛み、腫れ、膝関節痛のファーストチョイス。緩やかに効くイメージがある。

5月に発症し、風に当たると手首がチクチク痛む、痛む場所は移動する。これを風湿の表証とみて、病院でリウマチと診断された方に使用し、著効した経験がある。

引用参考文献

  1. 活用自在の処方解説:秋葉哲夫著 ライフサイエンス
  2. 臨床応用漢方処方解説:矢数道明著 創元社
  3. 漢方常用処方解説:高山宏世編著 三孝塾
  4. 類聚方広義重校薬微:吉益東洞原著 尾台榕堂校註 西山英雄訓訳 創元社
  5. 金匱要略談話:大塚敬節著 創元社
  6. よくわかる金匱要略:田畑隆一郎著 源草社
  7. 中医処方解説:伊藤良 山本巌監修 神戸中医学研究会 編著 医歯薬出版株式会社

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