風邪の改善に漢方薬がおすすめの理由【5つの処方の使い分け】
こんにちは、グッさん(@gussan011)です。
秋から冬。空気が乾燥し、朝晩が極端に冷え込んでくるこの季節は、風邪を引きやすい絶好の状況が整っています
今回は風邪による漢方治療のお話。この記事では下記内容をお伝えします。
風邪の改善に漢方薬がおすすめの理由【5つの処方の使い分け】
目次
- 風邪の予防に最適。「板藍根」(ばんらんこん)
- 風邪がカラダに入り込んだら「発表」する
- 「攻める」&「守る」の両面を持つ漢方薬、葛根湯(かっこんとう)
- 「守る」漢方薬、桂枝湯(けいしとう)
- 「攻め」の漢方薬、麻黄湯(まおうとう)
- 「漢方の総合感冒薬」参蘇飲(じんそいん)
風邪の予防に最適。「板藍根」(ばんらんこん)
構成生薬(板藍根)
まずトップバッター「板藍根」ですが、板藍根という生薬には強力な解毒作用があり、風邪の予防の他、咽喉の痛みに有効です。
板藍根の使用目標は喉の痛み
「寒気はないんだけど、咽喉だけ痛いんだよね」ときたら板藍根でガラガラとうがいをしたら、そのままゴクンと飲んじゃって下さい。
喉の痛みに本当によく効きます。
※ただ、板藍根の性質は「寒」なので、お腹が冷えやすい方などの寒証の人は注意が必要です。
板藍根は風邪の予防に最適なので、風邪のシーズンは「うがい・手洗い・板藍根」。子供でも飲みやすいです。「見えないマスク」と言われる所以、是非お試し下さい。
風邪がカラダに入り込んだら「発表」する
さて、本格的な風邪治療はここからが本番。傷寒論には以下のような記述があります。
第1条
太陽之為病、脈浮、頭項強痛、而悪寒
【訓読】
太陽の病(やまい)為(た)る、脈浮に、頭項(ずこう)強(こわ)ばり痛み、而(しか)して悪寒(おかん)す。
傷寒論(しょうかんろん)とは?
三世紀初頭に張仲景という方が記載したと言われている「傷寒論」。大昔の本ですが、ここには病を漢方薬で治してきた現実が記されています。
刻々と変化する風邪に対応する漢方薬も記載されており、これが現代の風邪症状にも応用できるのです。
病のファーストステージ【太陽病】
太陽病というのは急性病のファーストステージで、病邪が表部(皮膚に近い部分)にいる状態です。風邪が身体の中に侵入すると、寒気がして脈が浮き、頭痛や肩のこわばりが出てきます。
風邪の強さと正気 (自身のエネルギー、自己免疫力) の強さが相まって邪正相争が起こります。この邪正相争というのは、風邪と自身の正気との戦争を指します。
言い換えると、正気が充実していなければ 邪正相争は激しくなりません。
例えばインフルエンザにかかったとして、小児は高熱を出しますが、高齢者はそれほど発熱しないことが多いのです。同じ風寒の病にかかったとしても、実際にはこのような現実があります。
風邪に使う漢方処方は病の進行状態によって異なりますが、初期対応は基本的に同じことを行います。それは「発表」です。風邪を正気を使って体外に追い出す行為のことです。
風邪治療の要点は、表部において外邪をいかに効率よく排除するかにかかっています。
これが超重要で、表部の原因をなんとかしないといつまでたっても風邪を良くすることはできません。それを踏ま得たうえで、具体的にどのような漢方薬を使うのかみていきますね。
「攻める」&「守る」の両面を持つ漢方薬、葛根湯(かっこんとう)
構成生薬(葛根・麻黄・ 桂枝・芍薬・生姜・大棗・甘草 )
出典:傷寒論
第31条
太陽病、項背強、几几、無汗、悪風者、葛根湯主之
【訓読】
太陽病、項背(こうはい)強(こわ)ばること、几几(しゅしゅ)、汗(あせ)無く、悪風(おふう)する者は、葛根湯之を主る。
冬場の風邪、風寒証
まず、風邪を引いた時をイメージしてみて下さい。まずはじめにゾクゾクと悪寒・寒気がしてきますよね?その後に発熱し、他にも症状として肩の強ばり、頭痛、咳、鼻水などが出てくるかと思います。
この状態を漢方では「表証」といいます。風寒邪と正気が表部で戦争している状態です。この時に額と脇の下に手を入れて、汗をかいているかどうかを確認してみて下さい。
汗が出ていなければここで「葛根湯」を使います。逆に、汗が出ているようなら「桂枝湯」を使用します。この2つの薬には、「扶正」といって、正気を補う為の生薬が入っているのです。
つまり、正気を補いその力を道具として使い、風寒邪を外に追い払います。
これが「発表」です。元々人間にはこの力が備わっていて、漢方薬はこの力を手助けする心強い武器となってくれます。
不要なものがあれば瀉す。正気が足りなければ補う。
漢方の原則原理を唱えた名方、それが「葛根湯」です。いやしかし、なんて良い薬なんだ。この薬を考えた昔の人は凄すぎますよね。
経験上、使う機会が多い薬方です。
葛根湯を使用する上でのコツと注意点
名付けて発汗一発療法。これで翌朝に症状が軽くなったら、もう葛根湯を飲む必要はありません。でも、できれば1日はゆっくり休んで頂きたいですね。
※葛根湯には麻黄(エフェドリン)という生薬が含まれており、心臓や胃が弱い人には不向きで、ある程度体力がある人向けの薬方です。
「守る」漢方薬、桂枝湯(けいしとう)
構成生薬(桂枝・芍薬・生姜・大棗・甘草)
出典:傷寒論
第13条
太陽病、頭痛、発熱、汗出、悪風者、桂枝湯主之
【訓読】
太陽病、頭痛、発熱し、汗出で、悪風する者は、桂枝湯之を主(つかさど)る。
葛根湯は有名ですが、桂枝湯をご存知でしょうか?実は、葛根湯には桂枝湯の構成生薬がまるまる入っています。桂枝湯に葛根と麻黄という生薬を加えると、葛根湯になります。
守る、補う漢方薬
桂枝湯は身体に不足している正気を補う薬で、桂枝(シナモン)で陽気を補い、身体の不足している正気を補います。
お湯で割って飲んでみるとシナモンの香りが強く、甘く飲みやすい味で女性や高齢者の方に適応しやすい印象があります。熱いお粥と一緒に服用することで薬力を助け、効果が高まります。
寒気があって、疲れやすく、汗をかいているような人に最適。桂枝湯を飲んだら布団を被ってじんわり汗を出しましょう。
桂枝湯証の方は治るスピードもゆっくりです。また、治ってきてもまた風邪を引きやすいなどの特徴があります。
症状が良くなってきてもしばらくは桂枝湯を服用しつつ、ゆっくり休養する事も大切ですね。
※桂枝湯は滋養強壮剤として用いることもできます。普段から汗をかきやすく、疲れやすい方は定期的に服用しておくとよいですよ。
「攻め」の漢方薬、麻黄湯(まおうとう)
構成生薬(麻黄・杏仁・桂枝・甘草)
出典:傷寒論
傷寒論第35条
太陽病、頭痛、発熱、身疼、腰痛、骨節疼痛、悪風、無汗而喘者、麻黄湯主之
【訓読】
太陽病、頭痛発熱し、身疼(しんとう)、腰痛し、骨節疼痛し、悪風し、汗無くして喘する者は、麻黄湯之を主る。
「麻黄湯」は悪寒、発熱し咳が出て、筋肉痛や関節痛が出ている場合に有効です。悪寒・寒気が強く身体に正気がみなぎっているような人が適応となります。
葛根湯証や麻黄湯証の場合、寒邪が侵入してくると汗孔がギュッと締まり、汗が出ません。
アクセル全開、攻める漢方薬
男性で、がっちりした体格のような方に合う場合が多いですね。麻黄湯には葛根湯や桂枝湯のように正気を補う力はなく、ブレーキなしのアクセルのみの薬方。
桂枝×麻黄で強引に汗孔を開け、寒邪を追い出す「発表力」に長けた方剤です。
麻黄湯は葛根湯を使うケースに似ていますが、傷寒論の条文にある通り、疼(しんとう)、腰痛し、骨節疼痛し(関節痛、筋肉痛)を目標に使いましょう。ここが薬方を見分けるポイントです。
関節痛等の身体痛が出ていれば麻黄湯、肩の強ばり程度で身体痛がなければ葛根湯でOKです。麻黄湯の人は、外邪が筋肉を通り越して骨までいっちゃってる状態ですね。
※麻黄湯にも麻黄(エフェドリン)が含有されています。葛根湯同様、心臓や胃が弱い人には不向きです。体力が充実している方向けの薬方になります。
僕は趣味でスケートボードやスノーボードをしているのですが、僕の周りには風邪を引いた時に麻黄湯証になる友人が多いです。子供もそうですが、病との戦争が激しい。みんな体力があるからかしら。
こちらは僕の友人が風邪を引いた時のLINEでのやりとり。
彼は長身でスポーツマン。麻黄湯での発汗療法がうまくいきました。
3処方の大まかな見分け方
悪寒、発熱、頭痛 | 関節痛 | 汗の有無 | |
麻黄湯 | 〇 | 〇 | 無 |
葛根湯 | 〇 | △ | 無 |
桂枝湯 | 〇 | × | 有 |
「漢方の総合感冒薬」参蘇飲(じんそいん)
構成生薬(半夏・茯苓・葛根・前胡・桔梗・陳皮・人参・生姜・大棗・木香・蘇葉・枳実・甘草)
出典:太平恵民和剤局方
四時の感冒,発熱頭疼,咳嗽声重く,涕唾稠粘,中脘痞満して痰水を嘔吐するを治す。中を寛め,膈を快くし,痰咳喘熱に効あり。
漢方の総合感冒薬
参蘇飲は隠れた風邪処方の名方です。まさしく「漢方の総合感冒薬」。
葛根湯は使い方にコツがありますが、参蘇飲は非常に使い勝手が良いですね。
風邪が治ったあと、咳だけが残ってしまうという方は結構多いのではないでしょうか。この薬には胃腸薬が配合されています。その為、胃腸が弱い方にもってこいです。
妻が風邪を引いた時によく使っています。
葛根湯ほどではありませんが、風邪を「発表」させる薬物も含まれており、胃腸の働きを促進させ、スムーズに咳を鎮静させます。
独特の風味がありますが、お子様や高齢者のいつまでも続いているような咳によく著効します。
※使うポイントは、「風邪を引いたあと、食欲が落ちてゴロゴロ痰が絡んだような咳に」
これまでの記事をまとめます
これらの漢方薬が使いこなせれば、冬場の風邪ってけっこう何とかなると思います。
漢方薬は使い方に少しコツがいりますが、うまく運用してみてください。特に初期対応が肝心です。
- 寒気や悪寒がなく、喉だけ痛い場合は板藍根でガラガラゴックン
- 悪寒・寒気があり、鼻水や咳、頭痛などが始まったら、汗の有無、身体の状態を考慮して葛根湯、麻黄湯、桂枝湯のいずれかを選択して服用し、汗をしっかり搔いて「発表」する。
- 風邪を引いたあと、食欲が落ちて咳が出ていたら参蘇飲。
- 温かい食事を摂ってゆっくり休養する。
風寒邪をやっつけるには身体を温めるのが原則です。その為、漢方薬を服用する際には必ずお湯で温めて服用して下さい。
余談ですが「笑っていいとも」のタモリさんは風邪を引いた時にお風呂で温まって身体を治すんだとか。これも「発表」ですね。自身の身体の治し方を体感的に分かっている方もおられます。
僕は以前、小児科の門前薬局で働いておりました。冬場の病院は恐ろしく混雑します。日によっては患者さまが200人近く来られる日もありました。
その現実をみて、感じたことがあります。「風邪は薬剤師が治すべきだ」と。
特に冬場の風邪は急性疾患の為、初期対応が適切なら治るのも早いものです。
そうすれば病院に行く回数も減らせますし、漢方薬の使い方のコツを掴めば自宅でセルフメディケーションが可能です。そしてこの方法はそれほどお金もかかりません。
漢方薬は天然の立体構造をしています。その為人体に吸収されやすく、合っていると想像以上の効果を発揮します。
ご家族に、愛しい人に「早く良くなりますように」と願いを込めて温めて服用させてみて下さい。きっと効果があると思います。
参考文献
- 註解傷寒論
- 太平恵民和剤局方
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